さて前回に引き続いて『ビジネスに戦略なんていらない』について
僕がこの本から大きく励まされたのは
「ビジネスはもっと複雑で豊かなコミュニケーション」だよという著者の言葉でした。
ビジネスの目的はあくまで「ソロバン勘定」で
利益を上げるということが大前提ではあるけれども
そこに終始してしまうような単純なものではない。
もっと奥行きがあるものだよという著者の主張に
社会人として働きはじめて数年経ち
働くということに上手く馴染めず悩んでいた当時の僕は
何かとても励まされたような気持ちになったのです。
(まぁでも、いまも働くということについては色々考えますけどね…)
ビジネス特有の豊かなコミュニケーションを
著者は「1回半ひねりのコミュニケーション」と表現しました。
「お客」と「わたし(売り手)」という役割を演じながら(1回ひねり)
商品やサービスを媒介として「本音」を見せ合う(半ひねり)
込み入ったコミュニケーションだと。
売る人と買う人という擬似的な人間関係を、それがあくまでも擬似的な関係であると知りつつそれを演じる。
この演じ方の中にお互いの「生身」を仮託し、信頼とか誠実といった「本音」を見せ合う。
この入り組んだコミュニケーションを通して両者の本音がうまく噛み合ったとき
「見えない資産」としての信用や満足が養われていく。
利益という結果の見える資産だけに囚われていると
こういったビジネスが持つプロセスとしての醍醐味が味わえないよ。
そういうことを著者は言っているわけです。
今から考えると働くということに悩んでいた当時の僕は、
ビジネスを単なる金儲けという狭い範囲で捉えていたわけで
その了見の狭さが悩みを生み出している大きな要因の一つなんだということに、はたと気づいたわけです。
まぁ素直に言ってしまえば
大学時代に演劇を志し卒業後もすんなりとは就職せずにいた当時
心のどこかに働くことは、あくまで「仮の姿」みたいな意識が強く
なんだか中途半端な向き合いかたしかできていなかったのかもしれません。
(かと言ってビジネスにがっぷり四つに向きあえば良いかというと
そういうことでもないとは思いますよ。)
「働く」ことと「私生活」のようなものを
明確に分けて生きる姿勢よりは
(そもそもくっきり分けることなんて本当は出来ないことかもしれませんが…)
働くこと自体が何か人生や生き方そのものに響いている方が
それを通して得ることも必然的に豊かなものになるのではないかと
いまはそんなふうにも思い始めています。