今回のテーマは『たべるトンちゃん』という絵本の衝撃について。
「あけてごらん…シュールすぎる かわいすぎる トンちゃんのとりこ」
こんなキャッチコピーが出版社のページに書かれています。昭和十二年の絵本をよるひるプロが復刊してくれました。昭和初期に出版されたにもかかわらず、箔押し、箱入りなど当時にしてかなり贅沢な作りだったようです。
作者は初山滋さん。様々な画風を描きこなし、日本の童画界をリードした偉大な方です。たくさんのお話を描き残されていますが、中でもこの『たべるトンちゃん』はとびきりシュールですてきな絵本です。
主人公はぶたのトンちゃん。食べるのが大好きで何でも食べてドンドン大きくなります。
とんちゃんのいちばんすきなものなぁに
たべものをたべられるときがいちばんすきだビィー
めがさめた ビィー
たべる ビィー
たべる ビィー
たべる ビィー
たべたらねるビィー
よくたべる むすこだ チン
この言葉のリズム感がたまりません。絵も1ページに1枚とかそんな型にはまったくはまらず自由奔放、のびのびと空間を思い切り使った大胆な絵が続きます。漫画のようなカットがあったり、文字も右から読ませたり左から読ませたり斜めになったり…。
そして語尾につく「チン」とか「ビィー」とか「ニャー」とかが心をくすぐります。
しゃぼんだま ニャ ぷうぷうと ニャー
しゃぼんみづ のんで ピィ?
あら とんちゃん ニャー あら ふはふはと ニャー
こんな感じ。ニャーがなんともかわいくて…。復刊してくれたのは「よるひるプロ」という出版社さんです。阿佐ヶ谷に「よるのひるね」という素敵な名前の喫茶店があります。昭和の漫画や古い週刊誌、古書、絶版本など貴重な本がぎうぎうと置かれ、夜な夜な文学音楽好きが集う素敵な喫茶店です。そこの出版部門がよるひるプロです。
“店内で見ていただくだけでは惜しすぎる名作古書の復刊及び特色ある新刊書籍刊行など致します。”とのことで大変に大変にありがたいことですね。一度遊びに行くと楽しいと思いますよ。
…さて。このトンちゃん、実は結末が格別なのです。
(知りたい方だけスクロール。)
たべる とんちゃん は トンカツや に かはれて ゆき
たべられる とんちゃん に なりました おしまひ ピィ
この唐突でシュールな終わり方!80年愛される理由が分かりますね。一度読んだらトンちゃんのとりこですよ。ニャー。