月ごとの、小説や詩のおすすめの一冊をご紹介していきます。5月、さわやかな季節です。五月雨という言葉もあるように、梅雨のイメージがありますが、実際の梅雨は6月が本番。5月は比較的過ごしやすい気候なのかな、と思います。ひとりで講演の芝生にレジャーシートを持って行って、ゆっくり読書…なんていうのもいいですね。
おすすめの小説
辻村美月の、『ぼくのメジャースプーン』。ハイペースで新刊を出し続けている辻村美月。今年(2018年)の本屋大賞も受賞しました。彼女の作品の中で、いちばん好きな一冊です。
あらすじ
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかった――。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に1度だけ。これはぼくの闘いだ。(講談社文庫)
あらすじの文体でわかる通り、これは児童書です。かと言って、子ども向けに書かれているかといえば…、小学校高学年くらいからが対象でしょうか?かわいらしい文体で、少しファンタジー(超能力のようなもの)の要素もあるのですが、内容自体はわりと重くて考えさせられる言葉がたくさんあります。
ぼくは、夏目漱石の『こころ』がとても好きなのですが、『こころ』との共通点がちらほら見えます。
たとえば…
- 先生と主人公(ぼく/わたし)という図式
- 先生の後悔(過去)とそこからの教訓
- 「愛」とは?というテーマ性
などです。
『こころ』の中で先生は、こんな言葉を言っています。
「愛とは罪悪なのです。そうして、神聖なものなのです。」
これにに符号する『ぼくのメジャースプーン』の先生のこんな一節があります。
「馬鹿ですね。責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです。」
僕は、この言葉を読んで、『こころ』の先生が救われたような気持ちになりました。そして同時に、『こころ』の先生にこの言葉を言ってくれる人がいなかったことを、悲しく思いました。
『ぼくのメジャースプーン』の主人公は小学生で、大切な友達の女の子を助けようと孤軍奮闘します。物語の根幹にある彼の問いかけ、告白に対するこたえが、上記の先生のセリフなのですが、読んでいる読者も救われるような、ずっと張りつめていた線がぷっつり途切れる瞬間がわかるような、とてもよいシーンです。僕は、このシーンのことを考えるだけでいまでも涙が出てきてしまうくらい、読んでからずっとこのシーンが大好きです。
『ぼくのメジャースプーン』僕がこの10年でいちばん泣いた本です。夏でもなく、冬でもなく、ぜひこの季節に読んでほしい一冊。どうぞ手に取ってみてください。