【4月】おすすめの一冊

月ごとの、小説や詩のおすすめの一冊をご紹介していきます。4月、出会いと別れの季節です。

おすすめの小説

さわやかな春を象徴するような、少し不思議で、すがすがしく美しい短編集です。

表題の『ゲイルスバーグの春を愛す』は、古く美しい街「ゲイルスバーグ」がなくなってしまうような要因(近代化の波)から、ゲイルスバーグの古くからの街そのものが、街を守る、というお話です。古い街に新しい時代の息吹を入れる、ということは古くからの街並みを愛する人にとっては悪なのですが、一方でそれにより助かる人や、よい変化が起こることもあります。それを知っているので、僕たちはなかなか気軽に、「新しいものなんて入ってこなくていい!」とは言えないですが、『ゲイルスバーグの春を愛す』のように、きっぱりとそれを否定し、古く美しいものを愛し続ける、というのは素敵なことだな、と思います。

さて、短編集の中に「愛の手紙」という作品があります。これも少し不思議(SF)なタイムトラベルものなのですが、時を超えるのが手紙のみ、というのがポイントです。

簡単にあらすじをご紹介。

1962年のニューヨーク、ブルックリン。
24歳のジェイクは、古道具屋で買ってきた机の隠し抽斗に一通の古い手紙が隠されていることに気づく。
手紙は80年ほど前、ヴィクトリア朝期の乙女が恋に悩みながら思い人に書いたラブレターだった。
ジェイクは古い時代からの贈り物に驚きながら、ペンを取る。
彼女に向けた励ましの手紙を書いて、街で一番古い郵便局のポストへ……

主人公のジェイクは、訳80年前に生きた恋する乙女と手紙のやりとりをするんです。しかも、ある事情により手紙のやりとりは3回までしかできません。(これも素敵な仕組なのですが。)絶対に会えない二人の、しかも回数制限つきの手紙のやりとり。

僕の読んだ本の中で、最もロマンチックな一冊かもしれません。不思議な独語感のあるこの一冊。桜の下でシートでも広げて、読んでみてはいかがでしょう。