プロレスという終わりのないドラマ

元気ですかー!

元気があれば何でもできる。アントニオ猪木さんの、あまりにも有名な言葉です。ちなみに私は、元気がない日でもプロレスを見ますし、むしろ元気がない日ほど見ています。

ディレクターの井上です。今回は、好きなものの話をします。プロレスです。

「プロレス、見たことないです」という方がほとんどだと思います。大丈夫です。この記事は、そんな方に向けて書いています。技の名前は一つも覚えなくていいので、少しだけお付き合いください。

50年以上続く、終わりのないドラマ

プロレスを知らない人に説明するとき、私はよく「大河ドラマより長いドラマです」と言っています。

普通の連続ドラマは1クール、だいたい3ヶ月で終わります。大河ドラマでも1年です。ところが新日本プロレスは、1972年の旗揚げから50年以上、一度も最終回を迎えていません。アメリカのWWEにいたっては、前身の団体から数えると70年を超えます。シーズン50を過ぎても打ち切りの気配がないドラマを、私は他に知りません。

しかも総集編がありません。先週の続きが今週あり、10年前の出来事が今日の試合で回収される。伏線の寝かせ方が、ウイスキーの熟成年数です。

「そんなに長いと、今から追いつけないのでは」と思われるかもしれません。ここがプロレスの親切なところで、どこから見始めても、実況と解説がだいたい全部説明してくれます。途中乗車、大歓迎です。

見どころは、結果より過程

格闘技とプロレスは何が違うのか。私の理解では、格闘技は「誰が勝ったか」を見るもので、プロレスは「そこまでに何があって、そのあと何が起きるか」を見るものです。

内藤哲也選手は、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』でこう言いました。

「勝った負けた、そんな小さいことで俺らこのプロレスしてないですよ」

勝敗が小さいこと。スポーツとしてはなかなかの問題発言ですが、プロレスの面白さはここに詰まっています。見どころは結果ではなく、過程にあります。

  • 不調が続いた選手が、ある日突然ふっきれる
  • 無名だった若手が、たった一晩でスターになる
  • 人気絶頂だった選手が、闇堕ちする
  • 昨日まで肩を組んでいた相棒に、裏切られる

書き出してみると、だいたい会社員の人生です。さすがに職場でパイプ椅子は飛んできませんが、スランプも、抜擢も、異動も、信じていた人とのすれ違いも、働いていれば一通り経験します。プロレスはそれを、15分の試合と数ヶ月の物語に凝縮して見せてくれます。

名言が多いのも、そのせいだと思います。棚橋弘至さんは晩年「何もなくても、1番を目指したっていいじゃないか」と語りました。暗黒期と呼ばれた新日本プロレスを背負い、ブーイングを浴び続けた末に団体を立て直した人の言葉です。現在は同社の社長を務めています。自己啓発書を1冊読むより、この人の歩みを追うほうが効く日があります。

エンタメとスポーツ。虚構と現実。

プロレスの話をすると、かなりの確率で「八百長でしょ?」と言われます。お気持ちはわかります。

WWEは、自らを「スポーツエンターテインメント」と名乗っています。そして、その舞台裏をドキュメンタリーにしています。Netflixの『WWE: “壮大なるドラマ”の裏側』(原題:WWE: Unreal)は、物語をつくる脚本チームの部屋にカメラが入るシリーズです。

面白いのは、その裏側を全部見たあとでも、WWEの試合がちゃんと面白いことです。物語はつくられていても、マットに叩きつけられる痛みは本物で、怪我も、年齢も、引退も本物です。

どこまでが演出で、どこからが本音なのか。見ている側にもわからなくなる瞬間があり、その瞬間がいちばん面白いのです。

そして、ここで問われるのは観る側のセンスです。プロレスファンは、野暮なことを言わずに、目の前のリングを全力で受け取ります。わかっていないのではありません。わかったうえで、乗っているのです。

その極致が、DDTプロレスリングのヨシヒコ選手です。説明は省きます。まずはこの試合を見てください。

見ていただくとわかりますが、対戦相手は本気で闘い、観客は本気で沸きます。
この懐の深さこそ、プロレスがエンタメとして成熟している証拠だと、私は思っています。

で、どこで見ればいいのか

会場に行かなくても、今はネットで見られます。

  • WWE:2026年10月から、日本でもNetflixで配信が始まりました。日本語の実況・解説つきです。すでに契約している方は、追加料金なしで今夜から見られます
  • プロレスリング・ノア:ABEMAで中継があります
  • 新日本プロレス:専用の動画配信サービス「新日本プロレスワールド」があります

女子プロレスも、今とても熱いです。スターダムをはじめ各団体が盛り上がっていて、地上波のバラエティ番組で女子プロレスラーを見かける機会も増えました。WWEでも、日本出身の女子選手が世界のトップで闘っています。「テレビで見たあの人」から入るのも、立派な入口です。

おすすめの見方は、1試合だけ見て判断しないことです。ドラマの第7話だけ見ても面白さがわからないのと同じで、2〜3週間追いかけると、急に登場人物の顔と関係がわかってきます。気づいたら、推しができています。

仕事が順調な人も、そうでない人も

仕事が順調な人は、チャンピオンの気持ちで見てください。守る側の苦しさがわかります。順調でない人は、負けが込んでいる選手を見てください。その選手は、だいたい数ヶ月後に大歓声を浴びています。

職業も、年齢も、プロレスの知識も問いません。元気があれば何でもできますが、元気がないときは、とりあえずプロレスを見てみてはいかがでしょうか。