“ふつうじゃない”がふつうにある
“ふつうじゃない”がふつうにある

岸川 楓きしかわ かえで“2023卒業

好きなことをする努力家は最強

ふつうの生涯を送ってきました

「自分でできる!」

ふつうの生涯を送ってきました。

「自分でできる!」が口癖の子供だったようです。
その記憶はほぼないのですが、両親が得意げに見せてくる幼少期のビデオにはしっかりと記録されていました。「自分でできる!」と言いながらケーキの生地を床にぶちまけていたり、まだ自転車に乗れないのに補助を嫌がって盛大に転んでいたり、ひとりで餌をやりに行って大量の鹿に群がられて号泣していたり。なんでも自分の力で成し遂げないと気が済まない子供だったようです。そんな口癖があった記憶は全くないし、子供の頃の自分を振り返るのは恥ずかしいけど、今見てもああこれは自分だな、という感覚があります。

いろいろなわたし

あの口癖はいつのまにか消えてしまいましたが、おかげで自分の力で壁をよじ登るための方法をたくさん知ることができました。自分は天才ではなく、いたってふつうの人間だったので、やろうと思ってすぐにできることはほとんどありませんでした。中学に上がった頃四則演算の負の数の概念がわからなくて泣きながら勉強していたら朝になっていたり、直前になってもピアノのコンクールの課題曲が弾けなくて本気でハサミで指を切ろうとしたり(幸い止めてくれる人がいたので、指はあります)。そこまで追い詰めるならやめればいいのにと言われることもありました。できないことに向き合うことはつらく、いろんな意味で怪我もたくさんしてきましたが、それらを乗り越える経験をひとつ得るたびに、自由に近づいていく感覚がありました。できることが増えるってこんなに楽しいんだ、と思うと同時に、案外やろうと思えばなんでもできるかもしれないというささやかな自信を持つようになり、これは今の私の大きな支えとなっています。

私にとっての自由とは、人生における選択肢というか、”いろいろなわたし”が存在することだと思っています。自由に近づく喜びを覚えた私は、バンドマンに憧れてギターを練習して歌ったり、医者になろうと思って必死で勉強したり、国民的キャラクターをつくりたくて学級新聞を乗っ取って自分のキャラクターを描きまくったりと、心のままにとりあえずなんでもやってみる日々を過ごし、たくさんの”ちがうわたし”に出会いました。これらのどれも最終的には選ぶことがなかったし、客観的に飽き性なのかもなと思うこともありました。でも経験は消えないので、26歳の私がこれらをもう一度選んでみることもできる。たとえ人生の主軸にはならなくても、”ちがうわたし”として存在し続けています。そういう意味で、自由への可能性を積み重ねてきたと思っています。

自由には迷いがつきもので、進路選択のタイミングになってもどこに行くかを決められず、毎回違う希望を書いていました。ここで選んだ道をずっとまっすぐ進み続けることはないんだろうなと漠然と感じていたので、つくることが好きで、なんかいろいろできそうで、一人暮らしがしたいという雑な理由で地方でプロダクトデザインを学ぶことにしました。

岸川 楓 岸川 楓

(webデザイナーのわたし)×n(人)

そんな私が今やっているのは、webデザイナーという仕事です。
迷いながら生きてきた私は大学卒業後、新卒で設計の仕事をしていましたが、ある日ふと”ちがうわたし”をやってみたくなり、未経験からデザインとコーディングを勉強するという壁をよじ登ってきて今ここにいます。
私はまだこの仕事をはじめて1年半ですが、最近になってwebデザイナーは自分に合っているのかもと思うようになりました。仕事を通して”ちがうわたし”になる機会がたくさんあるからです。まずデザインとコーディングの時点で頭の使い方が全く違います。デザインだけをとっても、作るサイトの業種やテイストが違うと、今までの自分にはなかった思考回路を求められたり、色んなタイプの脳みそを日によって付け替えている感覚になるときがあります。そういう部分で、今までの私の生き方に近い部分があり、合っているかもなと思っています。

わたしの自由

自由を追い求めてふらふら生きてきた私が、webデザイナーという一生の選択肢に落ち着いたというストーリーにしてもよかったのですが、正直に言うと10年後同じ仕事はやっていないと思います。ふとした瞬間にまた”ちがうわたし”を目指して未開の地にいくために、壁をよじ登ることになるんだろうなと思います。
ただひとつ言えることは、”ちがうわたし”になってもデザインは私の手もちわざとして、スタメンの選択肢で在り続けるだろうということです。これまで得てきたたくさんの選択肢の中で、正直これはもう使わないだろうなというものもたくさんあります。そんななかで手もちわざに入れておくぐらい、デザインという仕事が好きだなと思います。

10年後の私を想像した時に、思い浮かぶ”わたしの姿”が無数にあり、どんなわたしにもなれるだろうなと思えるのは、幸せなことです。これからも変わらず、自由であり続けていたいなと思います。

2023年2月15日
岸川 楓

岸川 楓

Profile

岸川 楓

岸川 楓

デザイナー

岸川 楓(きしかわ かえで)1996年6月11日生まれ。デザイナー。興味があることはとりあえずやってみる精神。映画館のジンジャーエールが好き。デジタルハリウッドbyLIG講師。

“ふつうじゃない”がふつうにある